ささログ

55:当然、下心は存分に満載だよ。


よくある話だ。とはいえ、迂闊だったとは思う。

その日、オレたちは映画を見に行こうって前々から約束していたんだけれど、直前になって兄ちゃんたちから用事言いつけられちまって、少し上映時間ギリギリになっていた。

この日で最後の上映で、しかも上映時間ラスト。

楽しみだなーって珍しく言っていたから、絶対に連れてってやりたいって思ってさ。

「藤守、急げ」

「う、うん」

地下鉄を降りて、オレたちは映画館まで走っていた。

体力的にオレより劣る藤守がかなり息切れを起していたから、自然その手を引いて走る。

ぜーぜー言ってる藤守が心配になってきたから、ただ単純にショートカットのつもりで、脇道に入った。

大きな道沿いに行くよりは、近い上に人通りも少ないしってことで。

「......！」

その角を曲がってしばらく進んでいたら、何故かいきなり藤守はぴたりと足を止めた。

おかげで、藤守と手を繋いでいた反動でかくんとバランスを崩したオレは背中から倒れてしまった。

「いってて、んだよ、藤守ー？」

「あ、あ、あ......」

思いっきり打ち付けた腰を摩りながら見上げれば、顔を赤くした藤守は意味ない言葉を呟きながら、思いっきり硬直してる。動揺してるのが丸分かりの、目を丸くした面白い顔で。

なんだ？　と辺りを見渡して、しまったと頭を抱えた。

ここ、裏通りらしく、ある種の雰囲気タップリなホテルが軒を連ねていた。

―――あーあ、藤守が動揺するはずだわ。

成人男性で、同性だけど恋人もいて、勿論ヤることヤってるわけで、何を今更ってかんじだけど、藤守はこう。

昔のことがあったからかもしれないけれど、でもま、それがなくてもきっと藤守はこうだったんだろうな。

真面目で、少々潔癖な藤守らしいといえばらしいか。

苦笑しながら、顔を覗き込み、ひらひらと手を振ったらハッとして引きつった笑顔を返してきた。

一応動揺からは帰ってきたらしい。

「おい、藤守。行くぞー？」

「......う、う、ん」

ぴきぴきと強張った顔で頷く。

ってか、ただ通るだけだってのに、何緊張してるんだか。

まるでロボットのような動きしてるから、手を引いてやったらまたガチンと凍りつく。握った手のひらがなんか変に湿ってるし。

―――あー、ったく。初心な反応してんじゃねぇっての。

全然そんな気無かったのに、これは藤守のせいだかんな、くそっ。

ムクムクと湧き上がってくるとある下心を自覚しつつ、とりあえずはと、固まったままの藤守を小脇に抱えたら、今目覚めたような顔して見上げてきた。

「へ？」

「映画、遅刻するからな」

「あ、う、うん......」

しゅんとなった藤守を抱えて走り出す。

やっべー、予告始まってるって。

スピードアップさせて、路地を駆け抜けた。

「......ごめん、羽柴」

そこを抜けたところで、降ろしてやるとほっとして、申し訳なさそうに頭を下げてきたから。

「ん、別にいいけど？」

なんてこと無いって顔で藤守の手を引いて映画館に向かいながら、「帰りも勿論あの道だよな」なんて考えて、少しだけ頬を緩めた。


～終～