ささログ

6:逃げても無駄、隠れても無駄。


どうして......？

視線だけでそう言って藤守は、ちょっと不機嫌な様子でオレを見上げた。

折角隠れたのに、安易に見つかっちまう自分にも腹を立てているみたいだったけどな。

「隠れたってすぐ分かんだもん、無駄だって。ほれ、藤守」

オレの本心を探り出そうとしているような藤守の視線に答える代わりに軽く肩を竦めて、しゃがみこんでいた藤守に手を差し出した。

「いらないっ」

だけど、そんなオレの態度が余計勘に触ったようで、ぱちんとオレの掌を叩き、自分から立ち上がった。

そして、オレを無視したまま、すたすたと歩いていこうとする。

「いってぇ～......」

その背中にオレは、あんま痛くなかったけど、ひらひらとその叩かれた手を振ってみせる。

それを聞き、振り返った藤守はきっとオレを睨んだ。

「自業自得、だろっ」

「ったく、冷てぇの」

「......っ」

オレの言葉を聞いて、藤守はすぐ困った顔する。

意地っ張りの藤守を余計意地にさせてるのは、オレ。

藤守だってそう思ってるのに、『冷たい』って言葉にぎくんとする。

良心が痛むんだろうな。

そんなつもりないって気持ちと、オレを責める気持ちがせめぎあって、藤守はそのまま立ち止まってしまう。

どうしようと迷う顔も可愛いなんて思いながら、オレは藤守との距離を縮めて、藤守の腕を引いた。

まだ怒っているかな？

そう思ってたけど......案外容易く藤守の体はオレの腕の中に納まった。

「ばか羽柴っ」

最後の意地とばかりそう呟いた藤守は、抱き寄せたオレの肩にちょこんと頭を乗せる。

「バカで結構、だぜ？」

「......ばか」

嬉しそうに顔を覗きこんで舌を出したら、藤守は疲れたように肩を落とした。

んだよ、んな呆れ顔することねーのに。

本心からそう思ってるんだし。

つーか藤守の『ばか』にはいっぱいの愛情が篭ってる気がするから、言われてなんか嬉しいんだ。

「......だけど」

「ん？」

感情が高ぶってきて、思わずぎゅっと肩を抱くと、藤守は思い出したように呟いた。

「あ、あーゆうの......もうやめてよね」

「なんで？」

「なんでって......だって、その......、は......恥ずかしい、だろ？」

「......」

ばっか、それ、直撃だっての。

あ～、くそっ。

オレを煽ってんのは、明らかに藤守なんだからな。

そんな赤い顔で上目遣いでの、お願いなんてさ。

何でも聞いてやりたい気もしないでもないけど、こればっかりはな。

結局オレは、藤守の可愛い台詞には答えないまま、抱きしめる腕だけを強くする。

そんなオレに藤守は諦めたようにため息をついた。



心ごと全部オレに預けてしまっても。

それでいいよなんて、そんな傲慢なこと言うつもりはないけど。

どんなに藤守が逃げても、隠れたとしても。

藤守を見失ったりはもう、しない。

......出来ない。



だから......。

無駄なのは......。

「本当はオレのほうだから」

「え？」

オレの呟きを聞いて不思議そうに見つめてきた藤守に、オレは満面の笑みを浮かべて、口付けた。