ささログ

03：はい、馬鹿決定。


教室に入った途端、挨拶もそこそこに、悪友たちに捕まっちまったオレ。

「チョットこいよ、羽柴｣

「あぁ？｣

変にニヤニヤ笑いやがってるその顔に多少不信感を抱きながら近づくと、奴らはオレの肩をがしっと掴みオレを取り囲むようにしてきた｡

「んだよ、一体」

「い、いいから、これ聞け」

「はぁ？｣

睨むように見つめたオレにそのうちの一人が、妙に真剣な顔をして、ウォークマンを手渡してきた。

意味がわからなくて、そいつの顔とウォークマンを交互に見つめているオレに、周りの奴らも妙な迫力で「聞け」と無言の圧力をかけてきやがった。

ったくよぉ......。

しぶしぶヘッドホンを耳にして、ボリュームを上げた途端、びっくりした。イヤマジで心底っ。

「んなっ！！｣

「わ、バカっ。声でけぇってっ｣

驚き過ぎてワンテンポ遅れて叫んだオレを囲んだ奴らは、慌てて押さえにかかる。

っていうか、苦しいってのっ、てめぇらはっ。

という以前にっ、なんだこれはっ！！

ヘッドホンから聞こえてくるのはやけに悩ましげな息遣い。

どう良心的に聞こうが、どう考えても、その、そういう......なぁっ、と、とにかくっ。

朝っぱらから聞くには刺激が強すぎるって言うか、おいおいおいっっ！！

「お、お前らなぁ｣

ヘッドホンを乱暴に外すとじろりと睨んでやった。

けれど奴らはそんな視線をもろともせず、そんなことよりともう一回聞けと強要してくる｡

「んでだよ......？｣

幾分警戒しながら、手のひらのヘッドホンをじっとり見つめてしまう。

「いいからっ。ちゃんと、声、聞いてみろって」

仲間の１人が『ちゃんと』って言葉にアクセントをつける。

声だぁ？

うさんくさくもあったけれど、逆に興味がわいてきたのも事実だったり。

でもう一度、耳に装着してみた。

流れてきた声に少し顔を赤くしながら、よくよく声に注意してきてみたオレは、唐突に絶句した。

「......ぶっ！！｣

そして。

オレは思わず座り込んでしまっていた。

奴らのたくらみっていうか、うん......何が言いたかったのかよぉく分かった。

オレのよく知っているヤツ......ぶっちゃけて言えば、藤守に似てるっていうか......、う～ん......似てるんじゃなくてっ。声のトーンが、その藤守にちょっと近い......感じが、するような......。き、気のせい、気のせいかも知れないけれど！

って、あぁっ、オレは誰に言い訳してるんだろ？

「驚いただろっ」

「ったりめぇだっ」

頭を抱え込んだオレを取り囲むようにしゃがみ込んできた奴らは、幾分か興奮気味に話しかけてくる。

そのくせ、声を潜ませるのは話題が話題だけに当然だよな。

そんなこと気付くくせに、頭はさっきの声をリフレインしてる。

はぁ～それにしても、似てる。

もう一度ヘッドホンを耳にして、何だか神妙な顔付きになっていた。

「なぁ」

「あ？」

「どうよ、羽柴」

「あぁ？　どういう意味だよ」

よくない言葉にヘッドホンを外しながらじろりと見つめると、奴らは揃ってにやにやしてやがる。

嫌な予感......。

「お前の本妻に似てるって」

「ぶ......っ」

あぁーやっぱりっ！　お前ら全員分かりやすいって。

どうしてこう来るのか、違うって言ってんのにっ。

誰が誰の本妻だってぇ？

そんなことをさらっと言ってるこいつらの方が恐いって。

「あのなぁ......」

オレと藤守は何度も言ってるけど......っていつもの台詞が口について出そうになったその前に、

「でも似てんじゃん？」

「そーそー」

「な......っ」

当然のように頷きあうけど、聞いたことでもあるのかよーっ。

そう叫びかけて、気付いた。

......オレ、聞いたこと、ある。

その事実に半分以上引きつりながらも、余計なコト気付いてしまったもんだから更に余計なコトが次から次へと湧いてくる。



多分どっかのＡＶから拾ってきただろうと思う、ちょっと声が低めのその女優。

......女優ってとこが、藤守が聞いたら憤死してしまうほど怒るんじゃね？　あはは......。

まぁそれはそれとして、その女優の声は、あからさまだった、うん。

まぁＡＶだから当然だけど、藤守は、あいつはこういうタイプじゃねぇよなぁ。

あいつは声を出すのすげー嫌がってたから、多分慣れてもこうはならねぇよな。

むしろ、慣れなくって、それでも声が漏れちまったりして、そんなこと恥ずかしがってさ......。

うわっ、そういうのって結構キそう。

うん、絶対..................ってっ、オレ？

ちょ、ちょっと待てってっ。そんなこと思う時点でオレってやばくねぇ？　そうだよなぁ、藤守は男だしっ。

いくら女みたく可愛くても、夜とらんがそんな関係だとしてもっ。

そんなこと、そんなこと、まさかなぁ......。

うーーーーーん......。



「授業が始まっているんだが？」

「は、え......」

気がつくとオレの周りに集まって奴らも席についてて、オレ１人教室の角にしゃがみ込んでいるって状態。

そしてしゃがみ込むオレの背後には、水都の気配が......。

授業が始まり水都が入ってきた途端、考え込んだオレをダチ達は無情にも見捨てたらしい。持ってきたアレも回収済みで、証拠隠滅？

（悪いっ、羽柴っ）

「あーっ、お前らずるいってのっ」

「いい度胸だな、羽柴」

こっそり手を合わせる奴らに怒鳴った途端、冷ややかな水都の声がそれに被ってきて、オレの背中に冷や汗がタラリ......。

更に追い打ちをかけるのが、

「ばか......」

冷たい、藤守の声。

あぁ、そうだよな、藤守のトーンはこっちの方が耳慣れてるって分かってるってのに、オレってば。

内心涙をこぼしつつ、ため息一つ。

......ホント、オレって、馬鹿......かも。


～終～