ささログ

※好きしょ・空×直　原作に沿ってません。

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15: 眠れぬ夜は傍に居て。


告白された側と告白した側が同じ部屋ってなんて気まずいんだろう。

意識せずにはいられない状況は、真綿で首を絞められる心地だ。



「眠れない」

何度かの寝返りの後、眠りを手放して俺は身体を起こした。

薄暗い室内、空気が濁ってる気がして、億劫がる体を無理矢理起こして窓に手を伸ばした。

開けた途端、秋口の少し冷えた空気が入り込んできてカーテンがふわりと踊る。

次第に低下してく室内の温度に清涼感を感じる。

風に遊ばれ不規則に揺れるカーテンをぼんやり見て、それから夜目に部屋中を映した。

隣のベッドでは、羽柴が気持ちよさそうな寝息を立てて熟睡中。

そういうとこ本当に羨ましいよ。

大仰に溜息を一つ。それでも―――羽柴を見てることに気付いて、誰に見られているわけでもないのに気まずくて視線を逸らした。

鼓動が少しだけ早くなった自分に戸惑い、また溜息が出た。

自他共に認める寝汚さはむしろ俺の方なのに、今日はなかなか眠りが訪れてくれない。

......どうしてか。なんて理由は言うまでもない。



―――今日の夕方、俺は羽柴に告白された。

自分自身気付けてなかったことを突きつけられて戸惑ってるうちに。

「気を付けろ」とかそんなこと言われてカチンときて、言い返してたら唐突に。

男だとか、そんなの関係なく「好き」だと言われた。

呼吸が、時間が。一瞬にして止まったのを覚えてる。

何で。とか、返事はどう。とか。

悩み始めた俺に、羽柴は無神経かつ大胆な行動をしてきたから、俺はその場の全てを拳と共に有耶無耶にした。

その後、口喧嘩しながら結局は一緒に寮に帰ってきて、それからもほぼ一緒の行動をしているわけだけれど。

俺の気まずさと言ったら無かった。

意識的に普通にしようとしている緊張から、余計不自然になってたと思う。

いつもの俺とか普段の俺たちってなんだろう。ってそんなことまで、考えてしまっていた。

なのに羽柴ときたら、さっきのことがまるでなかったように俺を構ってきた。

夕食時なんておかずの鳥の唐揚げを前に、

「も～らい。うん、美味い♪」

勝手に俺の食べかけを取っていくって......何、それ。

驚愕から声も出なかった俺に、

「相変わらず、仲良しだね～」

一緒に食べてた祭ちゃんは笑うのを堪えてそんなこと言うし、散々だ。

最終的には、当たり前だけど一緒の部屋だから二人っきりに。

けど、困ってたのは俺一人みたいで。

羽柴はいつもみたく普通に話しかけてきて、俺はそれに相槌を打つっていういつものパターン。そして、就寝時間が来たらさっさと寝てしまった。

いつも通りを装って、俺に気を使ってくれている？

と思わなくはなかったけれど、違うよね。

羽柴はそんなさりげないこと、さらっと出来るような人じゃないから。

告白されたとき、口に出した途端すっきりするような顔してたっけ。

後は俺次第ってことで、気持ちをすっかり切り替えちゃってるのかもしれない。その方が羽柴らしいな。

―――なんか。

余計な気を回してグルグルしている俺がバカみたいだ。

ふて腐れるのもお門違いだろうけれど、苛立ち紛れに大の字になって勢いよくベッドに沈んでみた。

少しだけ音を立てて、スプリングが軋んだ。

正方形のコンクリート打ちっ放しの天井を背景に、薄いブルーのカーテンが揺れている。

ふわふわと風と踊るみたいに。風が凪ぐと寂しげに佇むみたいに。

不規則なその動きは、まるで俺の気持ちみたいだ。

そう思うと誰かにまざまざと見せ付けられているような気がして、全てに蓋をするように俺は目を閉じた。




瞳を閉じるとすぐに、オレンジと赤と濃紺のグラデーションを纏った、夕日が視覚化される。

日が落ちていくと共にゆっくりと温度を変えていく空気とか。

ぽつんぽつんと一つずつ、灯されていく家の明かりとか。

少し寒かったな。とか、綺麗だったな。とか。

夕日を背景に思い出される人影は意図的に排除して、余計なことばかり考えて、今真剣に考えなきゃいけないことを回避してばかりしていた......。

だって......今日のことなのに、現実じゃないみたいで。

嘘つきじゃないって知っている。

俺がそう思いたがっているから、これはそのせいだ。




......目を開けると、またカーテンが踊っていた。

声だけが耳について離れない。煩いくらい、木霊する。

「あーもうっ」

苛立ちで、思わず声が出た。

慌てて口を押えて、隣の様子を伺ったけれど、羽柴の寝息は乱れがない。

ほっとしながら、また天井を見上げた。

―――本当はちゃんと分かってる。

羽柴のせいじゃない。全ては、自分だ。

考えないようにしてるのも。でも実際は考えてしまうのも。意識してるのも。声が聞こえてくるのも。......眠れないのも。

羽柴の言葉はただの始まり。俺はあれから困っているだけで。

結局はそこに辿りつくから、羽柴の言葉を真剣に受け止めて、向き合わなくてはきっと眠れない。

困るよ。そんなの。

......だから。

自分の答え、か。

漸くそう思えたから、諦めてもう一度目を閉じた。




―――......好きとか。例えば、嫌いとか。

勿論俺は、羽柴を嫌ってるわけじゃない。

どちらかといえば、好き......なんだろうと思う。

くーちゃんと呼んだ昔も、羽柴と呼ぶ今も。

「好き」と言われて......嫌、じゃなかった......その感情を言葉にするなら、それはきっと「嬉しかった」。


くーちゃん......は変わらない。

行動する前に考えて立ち止まってしまう俺の手を引き、くいくい先に行こうとする。

その先が間違っていても、振り返って後悔なんかしない。

「ざんねん。じゃあ次はこっちに行ってみようぜ」

まず行動の......くーちゃん。


そしてあの時のまま背丈が大きくなっただけの......羽柴。

夕方の告白も、きっとそれなんだろう。

......でも。

俺はそうじゃない......色々考えてしまう。

考えてはこうやって立ち止まる。



俺は男で。羽柴もそうで。

普通じゃない。おかしいって思う気持ちがある。

だけど、間違ってるとも言い切れない。

お兄ちゃんや七海先生、夜とらんの関係は、知ってる。だから、常識じゃないけれど、そういう関係もあると理解はしている。

だからといって、自分に当てはめるのには疑問を感じる。

ただ、好きだと言われ......自分に向けられたそれを少しは嬉しく感じる俺は。

羽柴と特別な関係になるのを......本心では、望んでる？

そうなりたい、俺は？


俺は、羽柴のように。

羽柴が俺を特別と言い切るように。

俺は羽柴を特別に......好き、なのだろうか？




一際大きく心臓が音を立てた。

痛いほど......実際痛い。

息苦しい。呼吸出来ないほど......。

俺は、俺は............。




胸の奥から抉ってくる、痛みを覚えるような激しい鼓動に戸惑っていると、急に羽柴の寝息が止まった。

「......！」

むくりと起き上がる気配がしたから、殊更きつく目を瞑った。

ぼりぼりと肌をかく音。ふぁぁ～って、欠伸。

ベッドがきしんで音を立てて、ペタペタって足音がドアに向かって、静かにドアが開き閉じられた。同時に目を開く。

一瞬高く舞い上がったカーテンがさらさらと落ちてくるところだった。

「はーーーー......」

吃驚した。まさか羽柴が起きるなんて思っていなかった。

さっきとは違った意味で、ドクドクと鼓動が早くなった。

......羽柴のこと考えてたから、一瞬起こしてしまったのかと思った。

手がぽかぽかする。

驚きすぎて冷えてしまった手先に、どくどくと血が逆流していくようだった。

手を翳して、その陰越しに天井を見つめる。

相変わらずふわりふわりとカーテンは舞っていた。




ほっとしたのもつかの間。

トイレに行っただけらしい、羽柴はすぐ戻ってきた。

ドアの開く音で慌てて、手を降ろし目を瞑る。

羽柴の気配が近づいてきた。

それが急に立ち止まる。

またすぐに熟睡するのを祈ってただ固まってた俺は、一向にベッドのきしむ音がしないのに首を傾げた。

自分に注がれる羽柴の視線を感じる。

なんで？　眠ったふりがばれてる？　


はーと溜息。それから少し息を飲む音。

それから......。

「―――......じもりっ」

なんで、そんな切なそうな声で呼ぶんだよ。

折角落ち着いていたのに、また胸が苦しくなってくる。

息だって上手く吸えなくて、堪らず寝たふりで寝返り、羽柴に背を向けた。

目をぎゅっと瞑り、小さく縮こまると願った。

......早く眠ってしまえばいいのに。




―――......え？

すぐ近くでベッドのきしむ音を聞いて、覆い被さるような影をふいに感じた。

驚く間もなく、全身を抱きしめられた俺は身動き一つとれなくなってしまっていた。

ちょ、ちょっと羽柴、なに？

内心はひどく動揺しているのに、全身は石のように固まってしまっていると、すぐにすぅすぅと穏やかな寝息が聞こえてきた。

寝て、る、の？

狸寝入りだろうか、と思ったりもしたけれど、それにしては体を布団に預け熟睡しきっている。

なんだよ、もう。緊張した俺がバカみたいじゃないか。

人を抱き枕代わりにして、一瞬で熟睡って、本当に羽柴は暢気だ。

いろいろ考え込んで、ぐるぐるして。眠れずにいた俺が本当にバカみたいだ。



溜息一つ。そしてこみあげてくる小さな笑い。

羽柴の体温が心地いいと、少し思いながら、何となくぼんやりしていると、今夜初めての欠伸が出た。

あんなにも眠れずにいたのに、羽柴は眠りにも誘ってくれるのだろうか。

羽柴のせいなのに、羽柴のおかげで。

だから。と思う。

もう今日はいいか、また明日からちゃんと考えよう......。

ふわりふわりとゆれるカーテンを見つめながら、心地いい温かさに包まれて、ようやく訪れてくれた睡魔にゆっくりと身を委ねた。


～終～

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<メモ>
お題、ほぼ半年ぶりの更新......orz
しかーも。うっかり消してしまったお話のリテイク版です。
ありがちですが、消した話の方がまとまっていたんじゃないかなぁ...って思ってしまいますが。。。

2009年に出した同人「Love&Free Mix!」に乗っけた「君の羽根」の空Ver.であるお題７「そんな事言うと...ふさぐよ？」のアンサー的お話です。
結局は回答、直さん保留にしちゃってますが。

原作が直さんから好きになったっぽいので逆が書きたくなったんですよねー。
空さんからガンガン行く！→それで自分の気持ちに気付く直さんが。

この二人は割と好きなので、続きは思いついたら追加予定ww

2012/10/14　了