ささログ

040：触ったら10万取るから。


「おーい、祭。藤守いるか～？」

「うん、いるよー」

藤守の姿がどこにも見えないから、とりあえずはと祭の部屋を訪ねたらビンゴだった。

「あーあ。寝てるよ」

祭のベッドを借りて、藤守は惰眠を貪っていた。

涎なんか垂らして、すーすーと寝息も気持ちよさそうだ。

「さっきまではおしゃべりしてたんだけどね～」

机に向かった祭が一瞬仕事に意識を向けている内に、船を漕ぎだしたらしい。

「空がきてくれてよかったよ」

オレが迎えに来なかったら、藤守を運ばせる為に後でオレを呼ぶ気だったとか。

「ふ～ん......」

気のない相槌を打ちながら視線は藤守から、離れなかった。



「でね............が、それで............ってこと、......でも。......と............」

「へー......」

ちょうどよかったと言い、話し出した祭はやはり机に向かいながら、オレに何か言っていたんだけど。

適当に相槌を打つオレの意識の大半は、眠っている藤守に注がれていた。


すーすー。と寝息が子供みたいだ。

眠ってる顔がこんなに無防備で可愛いなんて、藤守は知りもしないんだろうなぁ。

これは本人以外の特権だ。

......藤守も知らない藤守、か。

うわわ、なんか嬉しいんだけど。

知らず知らずのうちに手が頬に伸びる。

藤守の頬の感触はすげー気持ちいいんだよなー。

ぷにっとしてて柔らかくて弾力が合って。

......でも、手よりももっとその感触を味わうと気持ちいい場所も知っている。

ちょっとだけ、ちょっとだけ。

そんな都合のいいことつぶやきながら、祭が見てないことを良いことに、藤守に顔を近づけていると。

「そ～ら、それくらいにしようね？」

ぎくりと振り返ると、祭は相変わらず机に向かってて、振り返りもしてない。

それにほっとしながら、慌てて反論を試みる。

「な、何もしてねぇぞ、オレは」

「ん～？　まぁそういうことにしてあげてもいいけどね？　とりあえず、それ以上ナオ君に触ったら、10万取るよ？」

「高っ。ってか、金取るのかよっ」

「うん、だってー僕の部屋だしね？　僕の部屋だからってナオ君油断してるのに、勝手に勝手なこと許してたらナオ君に悪いでしょ？　けど、ま......」

「な、なんだよ......」

「ナオ君のほっぺた代なら、空にとって安いもんでしょ？　ね、どうするの、空？」

ようやく振り返った祭は、にやにやと実に人の悪い顔をして笑いながら、手のひらを出してきた。

えっと......なんだよ、この手は。

「出せるかっ」

苛立ち紛れに、その手を勢い良く叩いた。

「出世払いとか体で払ってくれてもよかったのに～。でもそれじゃ、ここでは我慢してね」

「う......」

やりこまれて意気消沈しかけた、が。

よくよく考えば、藤守を探しに来たんだから、藤守連れて帰って、自分らの部屋でゆっくりと、それこそほっぺにキス以上のことだって......。

なんて、思ったタイミング。

「あ、ナオ君熟睡してるから今日はこのまま寝かしてあげようよ、空」

くっ、......読まれてるし。

こうなると、完全に祭の手のひらの上。

「え、だってよー......」

「幸い、もう一つベッドあるし、任せて。それじゃ、空、お・や・す・み～」

「ちょ、ちょっと待て祭！」

ひらひらと手を振り、オレを追い出した祭はご丁寧に鍵までかけやがった。

無情にも閉められた扉を憎々しげに見つめたがなすすべなく、肩を落として一人部屋に戻るしかなかった。

「はぁぁ......」

祭の話を聞いていなかった罰か、藤守に不埒なことを仕掛けようとした罰か。

「10万払えば良かったかなぁ......」



～終～